PlexTools Professional(以下、PrexTools Pro)は、同社の欧州仕向の製品に付属していた
PlexTools をベースとしています。
PlexTools 自体は、国内向け製品に付属していた Plextor
Manager 2000
同等のユーティリティで、ドライブの回転速度を変更したり、リッピングやディスクコピーを簡単な操作で可能とするものです。
今回の Professional
では、静音化設定等のドライブ設定や、ディスクに関する診断プログラムを加えたものとなっています。
(1)ドライブ設定
PlexTools Pro の画面左にあるメニューリストより、DriveSettings
を選択すると、次のような設定が行えます。
・VariRec 調整範囲拡大
VariRec の調整範囲が、+/-4段階まで調整可能。
nero5.5 等のライティングソフトでは、従来通り +/-2段階の設定しか行えない。
・GigaRec
720MB(80min)メディアに、線速を落として約 1GB
弱ものデータを書き込む機能。
・SilentMode
民生品としては初。ドライブの動作を、細かく手動設定できる。
(1)書き込み速度の上限
(2)読み取り速度の上限
(3)アクセスタイムの選択
(4)トレイのローディングスピード
(5)トレイのイジェクトスピード
・SecuRec
データ CD
作成時に、独自のパスワード設定を施すことにより、書き込みデータを保護することができる。
(2)Q-Check
メディアの品質を多角的にチェックします。最高速
52x
が可能なメディアかどうかも、これで判定出来ます。
・C1/C2 test
記録されたメディアの C1, C2, および CU(訂正不能)
の各エラーをカウントし、数値とグラフ表示を行います。
・FE/TE test
最高速書き込み時における FE(Focus Error) と
TE(Tracking Error) をチェックします。
この両項目はメディアの機械的性能(面ブレや歪み等)を評価する目安となるチェック項目で、PlexTools
Pro では特に、52x
書き込みを行う際の、メディアチェックに用いられます。 52x
という、超高速での書き込みでは、ディスクの回転は
10,000
回転を遙かに超えたものであるため、成型精度の低いメディアを用いると、ディスク自信はもちろん、ドライブ本体にも破損の危険性があります。 従いまして、52x
という速度に耐えうるかどうかの判断には、このチェック機能が役立ちます。
・Beta/Jitter test
記録されたメディアの記録品位の目安として有効です。
Beta 値は、レーザーパワーの適正を判定します。 0
を中心として、+(プラス)方向だとレーザーパワー(ピットの形成)が強く、−(マイナス)方向だとレーザーパワー(ピットの形成)が弱いことが分かります。
Jitter
は、トラックの線速方向のブレを表し、音質の良し悪しに大きく影響します。 PlexTools
Pro では、T3 から 11T
までのピットの平均値を表示します。
3.ブラックトレイ&電源の強化
レーザー光の乱反射を吸収する効果があるので、書き込み品位の向上に寄与します。
また従来通り、電源部分の強化も行っています。
この他の詳しい製品情報は、プレクスター(株)のウェブサイトをご覧になっていただければ幸いです。
プレクスター株式会社トップページ: http://www.plextor.co.jp/
PX-W5232TA の製品紹介: http://www.plextor.co.jp/products/Premium/Premium.html
●準備
ATAPI
モデルの評価はいつも、一般ユーザーが一番行うと思われる
PC への内蔵にて行うのですが、同社の CD-R/RW
設計技術の集大成とも言えるこの PX-W5232TA
ですから、前回の SCSI
モデル同様に、やはりここは外付けケースに入れて評価したいもの。 そんなわけで、SUN
ケースの登場です。(笑)
実はこのケース、以前に当サイト常連の TADSIN
さんから頂いたもので、ご存じの通り本来は SCSI
インターフェイスですが、忙しい私のためにわざわざ
ATAPI -> USB 変換ボードを使って USB
インターフェイスに改造して下さっております。また、ノイズ源になりやすい排気ファンは取り外してありますが、ケース上部に大きな空間があるので、熱が逃げやすく、実際今までに熱暴走等の不具合は発生しておりません。(TADSIN
さん、ありがとうございます。重宝しております。)
では、そろそろ試聴に入りましょう。
●判断基準
オリジナルソース(リッピング元のプレスCD)に対する音質変化。
●総評:
前作の PX-W4012TS
に比肩する、極めて高い品位の音です。 Premiun
の名に恥じない、優れた音質。
PX-W5232TA のベースとなったモデルは、PX-W4824TA
なのですが、音質のチューニングは明らかに
PX-W4012TS を意識した音作りを感じるものの、PX-W4012TS
と比較して、やや上品な音に仕上がっています。
PX-W4012TS
で驚愕したスケール感はもちろん継承していますが、高域の出方は
PX-W4012TS
が誇張気味な印象なのに対し、こちらの方がより自然な印象で、PLEXMASTER
の音に近いという部分では、こちらの方がより近いかも知れません。
ちなみに、PC
へ内蔵した状態でも書き込んでみましたが、PC
内ノイズの影響か、高域に若干の雑味が乗るものの、スケール感は損なわれておらず、手軽なセッティングでもかなり高品位で書き込めるという印象を持ちました。
内蔵した PC は、M/B は Aopen AX6B, CPU が PentiumII 400MHz,
メモリ 256MB, 及び電源が ATX 250W
という、一昔前の極めてありふれた構成です。(^^;
●メディア毎の音質 (全て4倍速書き込み)
1.データ用 CD-R メディア
1-1 太陽誘電 74TY 74min 32x
前回使用したハズレロットの余り。(^^;
しかし、前回同様に音質は悪くない。 分解能も優れており全体のバランスが良い。
1-2 RICOH CD-R 80min 40x
意外な結果が出て驚いた。今までは、80min
メディアの弱みである、分解能が低く、輪郭が甘くなる特徴が露呈されてしまっていたが、今回は全く印象が異なる。
分解能も質感も優れていて 74min
メディア並の音質が聴ける。これはおそらく、GigaRec
を実現できるような、本機の高精度な書き込み能力が功奏しているのではないだろうか。ドンシャリ傾向も押さえられ、品位が高い。
1-3 三井化学 MJCDR74NK(Pink) 74min
国産のデッドストック。 PX-4012TS
にあったような高域の鋭さが影を潜め、ナチュラルに伸びる高音が心地よい。 レンジの広がりも秀逸で、申し分ない。本機に対するベストメディアの一つ。
1-4 MITSUI ADVANCED MEDIA, INC.(米国三井)
AK200PX0A 74min 8x
こちらの三井ブランドもほぼ同様の音質。 分解能、鮮度、レンジの広がり、品位、全てに於いて高い次元でバランス良くまとまっている。 現行のドライブで使用する限りに於いて、このメディアが今後も継続して購入出来るのなら、敢えて国産三井を探す必要はないだろう。
1-5 三菱化学 CD-R 74min 1x-16x
PX-W4012TS
では平凡な音しか聴けなかったが、今度は逆にとても良い印象を感じた。
同じく以前、好印象だった PX-W4824TA
が本機のベースであるためだろうか。 突出した部分は無いのだが、全体的にバランス良くフラットにまとまっていて、とても聴きやすい音がする。
2.音楽用 CD-R メディア
2-1 誘電 74min
今回はなぜか、いつも感じるような高分解能や優れた質感が感じられない。
1-5の三菱化学のメディアとほぼ同等の印象。 これは、PX-W4012TS
では等速書き込みだったのに対し、今回は 4x
書き込みであるという差異も一因かも知れないが、メディア自体のバラツキである可能性が高いようにも感じる。
※今回の音楽用誘電を調べてみると、前回まで使用していたメディアのスタンパー番号は
PR
で始まるシリーズであったのに対し、今回のものは
PB
でした。 どうやら、製品タイプが変わったようです。
優れた品質を維持していた音楽用誘電だが、遂にというか、音楽用まで品質の低下が及んでしまったのか!?
ちなみに、PB*****
という番号はロットではなく、正確にはスタンパーの版番号でして、アルファベットの2文字が世代や容量、仕向先といったカテゴリ分けがなされているようです。スタンパーの番号は数字が増えるほどその世代の後期の製品と言う目安になるので、ロット番号と間違われることが多いです。ちなみに、いわゆるロット番号に該当するものは、内周の透明部分(誘電では磨りガラス状)にうっすらと確認できる「シリアルNo.」がロット番号を兼ねています。しかし、この「シリアルNo.」の解読方法は私もハッキリ分かりません。(^^;
注意:これらの音質評価は、COLT-T が普通に購入したメディアを客観的に評価したものですが、幾度となく申し上げているように、メディアのバラツキや書き込み環境によって、音質は変化します。
あくまでも参考までにとどめ、最終的には皆さん自身が各々ご確認下さい。
●Q-Check
使用における注意
メディアの品質やエラーレートなどを視覚的にチェックする一連のツールですが、正確な知識を持たないままチェック結果を鵜呑みにすると、思わぬ間違いを犯すことになるので注意が必要です。
私が上記のような憂慮を理由は、某S社のユーティリティソフト
UM Doctor の功罪を思い出すからです。
ご存じのように、UM Doctor は、プレクスター社の
Q-Check 同様、メディアの C1/C2
エラーを視覚的に表示するソフトで、一般ユーザーでも簡単に使えることから、ネット上はもちろん、あまたの雑誌でメディアの品質チェックで利用されておりました。
しかし、当然ながらメディアの品質はこれらのエラーレートのみで判断されるものでは無いのですが、ほとんどの報道媒体においてメディアの本当の品質とは何たるかの説明がされておらず、C1/C2
測定結果だけが一人歩きをしてしまい、その結果 C1
エラーが多いメディアはダメだ、という誤った考え方がユーザー間で広まりました。
当時、メディアメーカーは UM Doctor
の為に不当な判断をされ、ずいぶん泣かされた、という話も聞いています。
Q-Check の各測定項目に関しては、オモシロ
CD-R 解説第8回として、特集記事を作成しました。
是非こちらもご覧下さい。
●まとめ:
PLEXWRITER Premium
と言う名前にふさわしく、音質面でのクォリティは申し分ない仕上がりと言えます。
前作の PX-W4012TS
と比較すると、同じメディアを同条件で書き込んだものでは
PX-W4012TS
の持つスケール感をより大人っぽくまとめ上げた印象を感じます。 PX-W4012TS
が若々しい鮮度を持ったスケール感を有するのに対し、PX-W5232TA
では数多くの経験に裏打ちされた奥深さがその音からにじみ出してくるのです。
それに加えて、様々なパラメータを自分好みに設定できる機能も見逃せません。
とりわけ、トレイの出し入れ速度まで細かく設定可能にしてあるドライブなんて、少なくともコンシューマー向けでは初めてじゃないでしょうか。 地味ですが、この機能はパーソナライゼーションにはなかなか有効。(笑)
余談ですが、5年くらい前に持っていた、パイオニアの
SCSI CD-ROM
ドライブは、他社のドライブが安っぽい音でせわしなくシャカシャカとトレイを出し入れしていたなかで、さすがにオーディオメーカーからなのか、ほぼ無音でゆっくりと出てくるトレイには、そこはかとない貫禄と、高級感を醸し出しておりました。
良い音や好みの音と言うものは、相対的なものです。
前作 PX-W4012TS
の音に驚愕した後に聴く音は、無意識にそれに匹敵又はそれ以上のクォリティを期待するものですが、PX-W5232TA
の音質はそんなユーザーの貪欲な期待に応える、確かなものと言えるでしょう。
この先、いつまで CD-R/RW
単体としての製品が登場するか、また登場しても果たして音質を語るに足りる書き込み品位を持ち合わせたドライブが登場するのか、残念ながら市場全体の見通しは記録型
DVD
に急速にシフトしつつある現状では悲観的とならざるを得ません。
しかし PX-W5232TA
は以後も語り継がれる、画期的なドライブの一つとなるでしょう。
2003年4月27日 (C) COLT-T
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