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第5回 2001/02/11 超激安時代の CD-R メディア選び

[ 目次 ]
 まえがき
(1)2001年初頭のメディア事情
 ・とどまるところを知らない価格下落
 ・低下した品質への懸念
(2)高品質メディアの危機
 ・こうして品質は落ちていった
 ・耐光性は性能のひとつに過ぎない
 ・UM Doctor Pro の解析結果を盲信すべきではない

 ・63分メディアはなぜ良いのか
 ・[コラム] 雑誌特集の功罪 - チョウチン記事を見破れ!-

(3)いまどきのメディア選び
 ・良いメディアの条件
 ・現在の問題点と今後について


(2)高品質メディアの危機

低下した品質とは、具体的にどのようなことを指すのかを解説する前に、CD-R メディアの製造工程をすごく単純化(汗)して説明してみます。
1. スタンパー(射出成型金型)に、ゲート(湯口)からポリカーボネイトを注入
  ↓
2.金型に刻まれている溝にしっかりとポリカーボネイト材を行き渡らせ、トラックとなる部分を精度良く形成するために、金型に強い圧力加える。
  ↓
3.冷却
  ↓
4.離型(金型から外す)
  ↓
5.有機色素を塗布(スピンコーティング)
  ↓
6.乾燥
  ↓
7.反射層を蒸着(真空スパッタリング)
  ↓
8.レーベル面の保護膜、レーベル印刷等の処理
  ↓
9.完成以上が、大まかな製造工程です。
次に、どうしたらコストを削減することが出来るかを考えてみます。
(※これはあくまでも私、COLT-T が独自に調査したり、事実を元に考察したものに過ぎません。しかし、大まかな部分では確度は高いと思っています。)

では、上記全工程のうちコストの低減が可能と思われる工程を取り上げ、各々解説してみましょう。実は、コスト低減の方法がわかってくると、次第に品質低下の根本的な原因が浮かび上がってくるのです。

さぁ、一番重要な部分の解説に入って行きましょう。

こうして品質は落ちていった
1.まずはスタンパー金型。以前のスタンパーは国内で製造されていました。
しかし、現在は殆どの場合、台湾などの海外メーカーによる安価なものを使っているとの事です。精度さえ得られるなら、どこで作ったスタンパーであろうと構わないはずですが、こういった精密機器の製造に関しては、日本の技術がトップクラスであり、海外のメーカーは日本から技術供与を得て製造しているのが一般的です。
私自身、畑は違えども1年ほど海外の製造現場にいた経験から言わせてもらうと、このような場合、技術を供与する側の日本企業は全ての技術を教えるわけではありません。基本的な手法は伝えたとしても、自分たちが実際の現場で培ったノウハウまではあまり教えることはありません。そこは職人気質でもありますし、ノウハウは企業の重要な資産でもありますから、教えるというよりは技術供与を受けた企業自身がが独自に培うものだからです。
また、品質に関する意識も国民性によって異なりますから、同じ技術を駆使して作ったものであるとしても、全く同じ性能や品質を得られるとは決して言えないのです。

2.しっかりと成型するには、成型時間と成型時の圧力(成型圧)、及び注入するポリカーボネイトの粘度と温度を厳重に管理する必要があります。
これらは過去のノウハウによって既に適切な数値が確立されており、それを逸脱した場合、確実に品質に影響を与えます。
ところで成型に関して、1枚あたりの原価を下げるためには、単位時間当たりのショット数(成型枚数)を増やす方法と、一台のスタンパーを寿命ギリギリまで使ってショット数を増やす方法の二つが考えられます。
しかし、単位時間のショット数を増やすということは、1枚あたりの成型時間が短くなることを意味するのだと、素人の私でも容易に想像がつきます。仮にそれが成型時間の許容誤差範囲に入っているからといっても、物理的に成型時間が短いわけですから、製品の質に影響しないわけがありません。これが慢性化すると、もう誤差ギリギリという概念じゃなくなりますね。
また、成型圧を許容範囲ギリギリで適正値より低くするとスタンパーの摩耗が減り、高価なスタンパーの寿命を延ばすことが出来ます。従って、トータルのショット数を増やすことはできると思いますが、反面スタンパーのトラック溝の形成が不十分となる危険性が増大すると考えられます。また、摩耗して寿命ギリギリのスタンパーで成型したものも同様だと思います。
かくして、許容誤差ギリギリの成型品が生まれることになったと思えませんか?

厳密な音楽のマスタリングを追求しているレコーディングエンジニアの方は、スタックリングを指でなぞるだけで、製造精度の見当がつきます。昔良かった製品でも、最近のロットではスタックリングの高さが微妙にうねっていると指摘されます。私もトライしてみましたが、わかりませんでした。(笑)
しかし、実際にそういう疑いのあるメディアで CD-DA を焼いて聞いてみると、以前のものより明らかに分解能が落ちているのが分かりました。

3.冷却と、4.離型ですが、離型前の冷却に注意すべき部分が存在すると考えます。
加圧直後の基板はまだ熱を持って軟らかいため分子結合が十分ではありません。本来はそのまま放置させることによりゆっくりと正常に分子配列が形成されるため、平面度を保つことが出来ます。しかし、項目2.で単位時間のショット数が増えているので、冷却時間を短縮しなければ、間に合わなくなります。
ところが、十分な冷却がされないまま離型してしまうため、離型直後に外気に触れることにより急激な冷却が起こります。あるいは、冷却を促進するために強制的な冷却を行っている可能性もあります。このため、分子配列が安定しない状態で結合されてしまうことになり、これが反りの原因になります。最近の大手国産メーカーのメディアに見られるディスクの反りは、このようなメカニズムで起こるのでは、と思っています。

5.有機色素と6.乾燥ですが、こちらは乾燥に関して、上記3.冷却と同様の疑いがあります。つまり、自然乾燥では間に合わないから、強制乾燥させているのではないか、ということです。スピンコートした直後の状態は、色素と溶剤が混合した状態で塗膜が形成されています。この状態で放置しておくと、溶剤成分が次第に揮発し塗膜の隙間を埋めてゆくことで塗膜自体がゆっくりと痩せてゆき、最終的には薄くて密度と強度が高い色素の層が出来上がります。しかし、スピンコートした直後から強制的に乾燥させようとすると、溶剤成分だけが急激に揮発し、色素の分子間の隙間を十分に埋めることが出来ないまま乾燥してしまうのではないかと考えます(これは、我々がペンキなどを塗る時にも同様の現象を見ることが出来ます)。その結果、隙間の空いた色素の層となってしまい、これが製品となって使われる際のピットの形状に大きく影響を与えてる可能性があるのです。

7.反射層の蒸着でも、蒸着時間を短くすると生産性は向上するものの、膜厚は薄くなりがちです。これはレーザーの反射率低下、あるいはトラックの追従性に影響を与える可能性が出てくるでしょう。

以上が、製造工程で予測されるコストダウン手法です。
こうしてみると、単価が安くなることでユーザーに恩恵を与えているように見えて、実はユーザーが知りえないところで、密かに品質を落としているという、現在のメディアメーカーの悪しき現状が浮かび上がってくるのです。
その反面、コストダウンというものは不可欠であることに間違いはありません。
これ以外にも、資材購入価格の低減、物流コスト低減、調達先変更等、様々な努力をしてトータルコスト低減を実現していると思います。
トータルコストの低減は、企業活動としては至極当たり前に行なわれることですし、これを上手に出来ない企業は三流と断言しても良いでしょう。しかしながらコスト低減が本来、当然求められるであろう性能や品質を犠牲にして生み出されるとしたら、これは重大な問題です。

 

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